ドイツ経済のジレンマ ユーロ安でも企業収益が改善しない理由

ドイツは現在、ユーロ圏の中で最も悲観論が高まりつつある国だ。
これはサッカーのワールドカップのことではない。


日本と同様、最近のドイツ経済は目覚ましい回復を見せている。
世界の工作機械では日本に次ぐ規模を誇っているだけに、ドイツは
最近のユーロ安も手伝って、収益も回復基調に向かっている。
高級車ベンツの6月の販売台数が、1年前より13%も増加。
同月としては過去最高を記録したと発表した。
またベンツの中国での自動車販売台数は1万3700台と、09年
6月実績の3倍近くにも達した。


失業率も、指標だけをみると去年からどんどん改善傾向を示してお
り、去年6月には7.7%だった失業率が、先月6月は7.1%まで
改善している。


ドイツGDPにおける輸出の割合は非常に高く、47%もある。
中国の輸出の割合が37%であることを考えると、主要先進国の中
では、異常ともいえるほどの規模だ。
ちなみに日本の輸出の割合はわずか16%。 米国は12%だ。
1年前と比べれば、対円で約2割も進んだユーロ安によって、日本
へはもちろん、米国やBRICs諸国への輸出が大幅に伸びたこと
が最大の要因。
しかしこれがユーロ圏への輸出となると、少々話が違ってくる。


ギリシャ発の金融危機によって、ユーロ圏経済は一気に信用不安
に陥った。 実体経済も去年からほとんど改善していない。
むしろ今後は一層、暗澹たる経済情勢に陥ることになる。
もう一つある。
フランスやイタリア、そしてスペインをはじめとした経済大国
たちも、同じ通貨であるユーロを使っている為、為替の利益
が享受できないという点だ。
 


その証拠となる事情が垣間見える。
ドイツはこの1年ほど、世界中で進んだ製品の在庫積み増しの恩恵
を大きく受けたことだ。
そして5月中旬に決まった7500億ユーロの安定基金積み増し後は、
急速に指数が悪化した。
先週発表された6月のドイツ製造業購買担当者景気指数では、新規
輸出受注の伸びが大幅に鈍って、5カ月ぶりの低水準になった。


さらに今月下旬にはストレステストの結果が公表される。
ドイツの州立銀行の資本不足は巨額に達しているというが、テスト
を実施してもきちんと公開されなければ、ユーロ圏全体の信用不安
は一気に加速することになるだろう。
皮肉にも粉飾的な数字を公表すればユーロは高くなり、輸出企業に
とっては明るいニュースにならない。
一方で正直に公表すれば、ユーロ安が進み恩恵を受ける。
ドイツのジレンマは今後も高まる一方だろう。



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